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翻訳語成立事情 ISBN:4004201896 柳父 章 岩波書店 1982/01 ¥735

この本は「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」という 10 種類の翻訳語の成立事情を取り上げ、開国以後日本人がどのように西洋の思想を日本語にしてきたかについて説明している。福沢諭吉、森鴎外、西周といった人物が翻訳語の成立に大きく係わっているらしい。

わたしの仕事では「ミッションクリティカル」「サーバ マネジメント」「マンマシン インタフェース」などのような安直なカタカナ語を多用しているが、むかしのひとは新しい外国語に対応する新しい漢語を考え出してそれを世間に流布させていた。海外から入っている情報が格段に少ない時代とはいえ、よくそんなことができたなあと感心する。

著者独自の「カセット効果」という理論がおもしろい。たとえば先人たちが individual に対して「個人」という訳語を案出して使用し始めたころはその意味を読者が訳者と共有していたわけではない。しかし、このような四角張った漢語には「むずかしそうな漢字には、よくわからないが、何か重要な意味があるのだ」と読者が受け取ってくれるという効果がある、と著者はいう。著者はそれを「カセット(宝石箱)」効果と名付けている。

著者のいうカセット効果は漢字の持つ効果のことだが、これと同じ効果はカタカナ語にもある。幕末や明治初期とは異なり、現在では外国由来の概念を漢語ではなく「ワーキングプア」「ルサンチマン」などのようにカタカナ語(つまり発音のまま)で表すようになってきている。これらのカタカナ語も「むずかしそうな外国語には、なんだかよくわからんが、きっと重要な意味があるのだろう」というふうに受け止められている。そのようにして使われているうちに世間にそのことばの意味がしだいに浸透していくというところも漢語や和製漢語と同じしくみである。

同じことを表現するのに、カタカナ語を使うか、漢語を使うか、大和詞を使うかといったことは、情報の受け取り手の立場を理解しようとする意思があるかどうかということが大きいと思う。

養老孟司さんの講演集か何かで、医師相手の講演で養老先生が「クランケ」という語を使っていらっしゃるのを読んだことがある。一般のひとを対象とした講演なら養老先生は「患者さん」という語を使う。聴衆によって使うことばを変えるのだからさすがである。

お年寄りとか小さな子どもまで広く一般国民に訴えるときに「子育てフレンドリー」とか「カントリー・アイデンティティー」とかいった奇妙な日本語を使うのは、他人がどう感じるかということを理解する、つまり他人を思いやる能力に乏しいのかもしれない。

追記:
考えてみれば、「カセット効果」という言葉自体にカセット効果がある。


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