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主人公がアジアのキルギシアという国に行き、そのすばらしさにおどろいて母国の友だちに手紙で紹介するという筋書きで、イタリアでベストセラーになったという本。翻訳が上手なのかとても読みやすく、1 時間あれば読める。原題は「キルギシアからの手紙」というらしい。そのほうがよいと思うが、なぜかあやしげな題に変えられている。

ともかく、理想郷のようなある国のことを書いただけの本だ。その国については帯の文章に簡単な説明がある。

秘境のユートピア「キルギシア」では…1日に3時間以上働く人はいない。残りの時間は自分自身のために使う。政治家はボランティア。学校は「人生の谷」と呼ばれ、勉強がなく学びがある。18歳を迎えると1軒の家が贈られる。刑務所はなく、警察官もいない。武器の墓場がある。誰かと愛し合いたいと思ったら、みんなにそれがわかるように、胸に小さな青い花を飾る。各家庭に菜園があり、お年寄りが耕す。お年寄りは「人生のマエストロ」と呼ばれる…


カトリックの総本山があるイタリアのお話だからか、楽園といっても人間のことしか考えていないことがよくわかる。この国ではイヌやネコは、ブタやウシは、またハエやカやゴキブリはどのように生きているのか、まったく言及がない。

「1 日 3 時間以上働かない」ことを理想としているのは、労働を悪と考えているのだろう。本来、人間が動物として果物や貝などを採集したり獣や魚を獲ったりしているだけでも 1 日 3 時間以上は働かなければならないと思うのだが。キリスト教では人間を動物とは考えていないのだろうから、しかたないか。極力働かなくてもいい、犯罪はない、病気もほとんどない、食うに困らない、ひとびとが愛と善意に満ちあふれているという理想郷は、エデンの園の変形のようにも思われる。実篤の「新しき村」が農業を基本にした労働する理想郷なのと対照的ではないか。

なんにせよ、この国の生活は都会的だ。電気は存分に使うみたいだし、食べものも 1 日 1 度は無料で食べられる、つまり外食できることになっている。それだけのエネルギーや食料を調達するためには、相当多くの労働力や物資が国外から搾取されるのだろう。まあ、人間以外の生きもののことが意識の中にない、エネルギーや物資は他所から調達するものである、といえば、今の日本における東京や、世界における日本も同じことか。キルギシアは、現在の先進国の縮図なのかもしれない。

エネルギーや物資でも同じだろうけれど、心理的にも、どこかで秩序を高めようとすると、同時にそれと同じだけの無秩序がどこかに生成されることになると思う。ナチス下のドイツやソビエト連邦のように特定の考えで全国民を統制しようとすると、その考えからあぶれて反乱分子となる人が必ず出てくるものではないだろうか。個人の心理で、意識を強固に保とうとすればするほど「無意識」の中に不安や反発心などが溜まる、あるいは、ある生き方をすれば自分の生きてこなかった自分、すなわち「影」が必ずできるのと同じように。

そういったわけで、この本を読んでなんだか気持ち悪い感じがするのは、人間の生理に反しているからなのだろう。かといって、SF や ファンタジーだと考えても大しておもしろくはない。なにごとも起きないからだ。ただ、過労死しそうなほど働いているひとには癒しになるかもしれない。
コメント
この記事へのコメント
3時間しか働かなくてよくて、高度に発達した社会に住めたら、誰にとっても憧れの世界ですね!
私がこの本で連想したのが、学生時代に大学の先生から勧められて読んだ「パパラギ」という本です。ご存知でしょうか?文明を知らない酋長が初めて見た人間社会を面白おかしく描いたもので、改めて読んでみても忙しい日常で立ち止まって考えたくなるような深い内容です。たんご屋さんならご存知でしょうね??それは結構古い本で初版が1920年に出たというのですから、その頭の柔らかさに脱帽です!
キルギシアのような国もいつか本当に誕生するかもしれませんね!?
ご紹介ありがとうございました。
2009/06/29(月) 21:20 | URL | ユーカリ #fhX26Cuc[ 編集]
そうそう、わたしもこの本を読んだときに「パパラギ」をちょっと連想しました。でも、「パパラギ」のほうがずっとよい本ですよ。あれは、文明という服を着た人間を裸にして見たという感じで、示唆に富む本だと思います。それと、科学的には正確でなかったり嘘であったりする部分も多いのでしょうけれど、デズモンド・モリスの「裸のサル」もそういうことを感じさせる本でした。そういった本とくらべて、この本は、なんというか、うーん、単に空想的な理想郷を書いただけという印象です。
ただ、男だけ会社で仕事をして女は家庭で家事だけをやるという分業でも世の中がうまく動くのなら、男女ともに働けば、ひとりあたりの労働時間は現在の約8時間の半分、4時間程度でいいじゃない、とは思います。
2009/06/30(火) 09:13 | URL | たんご屋 #Qhkulfr2[ 編集]
1日4時間労働に私も賛成です!
本当に仕事に集中できるのは4時間くらいが限界だと日々実感しているからです。
この本、職場近くの図書館で見つけて早速ざっと読んでみました。
最初は、「こんな理想的なことばかり言っても…」と思っていても、
読み進めていくうちに、「こうすれば良いかも、あれも…。」と頭の中に自分の理想郷が出来上がっていくのが不思議でした。陽気な気質(?)のイタリア人の書いたオープンで滑らかな文章がそうさせるのかもしれませんね。私も生活、変えようかな。(笑)
2009/07/01(水) 23:33 | URL | ユーカリ #-[ 編集]
なるほど。それはそうかもしれません。だれでも、自分なりにこんな世の中だったらいいなという理想がありますものね。

この著者は「頭」で考えすぎているような気がします。動物のことは出てこないし、植物も花として人間が利用するものとしか考えていない。同じ生きものだとさえ思っていないようです。頭で考えるあまり自然のことを度外視しています。世の中、人間だけで構成されているわけではありませんから、本当に理想郷を考えるなら、いまはやりの「エコロジー」ではありませんが、他の生物との共生のしかたをよく考えないわけにはいかないでしょう。
人間だって「頭」(脳)だけじゃなく、内分泌系とか自律神経系を含む「身体」(自然)があります。それがあるからこそ、急な危機にも身体が対応できるわけだし、恋愛もセックスも妊娠もできる。
同じことを心理学的にいえば、自我だけでなくてイドもあります。理屈(自我)だけで考えたとおりにはならないですよね。自我の都合だけを優先していたら神経症になっちゃいます。
2009/07/02(木) 04:50 | URL | たんご屋 #Qhkulfr2[ 編集]
そうですね、なかなか深いものがありますね!
「イド」って何だっけ?(^^ゞ
久しぶりに家にあった「心理学辞典」をひいちゃいました。
動物との共生ですか…次は、「裸のサル」を読んでみようと思います。
ところで、こちらのブログへのリンクをありがとうございます。
そろそろブログ再開したいと思ってます。
2009/07/02(木) 21:58 | URL | ユーカリ #RV3TGl7I[ 編集]
いえ、「動物との共生」ではなくて「生物との共生」です。植物との関係も非常に大切ですし、細菌との関係も、もっといえば(生物といってよいかどうかわかりませんが)ウイルスとの関係も重要だと思います。というか、水とか空気とか、生物以外のものも含めた環境のすべてが大切ということです。
理想郷のようなものを本当に実現させたいとしたら、この本のように不都合なものを退治すれば、あるいは不都合なものを無視すればよい、というような考えではダメだとわたしは思いますね。
この本の著者は、世の中で人間だけが特別な存在だと思っていて、人間のことだけを考えているという印象を受けました。語弊があるかもしれませんが、そういうところはキリスト教的なのかもしれません。
2009/07/03(金) 20:23 | URL | たんご屋 #Qhkulfr2[ 編集]
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